日経グローカル寄稿「会派と議会改革」
日経グローカル2013年5月20日号掲載の原稿です。議会改革 現場からの提言というシリーズの第4回目です。実際に掲載された原稿とは違いがあります。
地方議会における会派は、定義を法律で明確にされていない存在である。政務活動費の受取主体としての存在規定しかなされていない。
しかし、会派は、代議制民主主義と不可分の存在であり、憲法により結社の自由が制度的に保障されていることからも、不合理で不要だから無理になくせばいいというほど単純なものではない。
充実する会派内の議員間の議論
地方議員にとって、会派ほど悩ましい存在はない。会派の数の力によって、議会の改革を阻まれた事例も、逆に、会派あったからこそ、議会改革が進んだ事例もあると思う。議会改革にとって会派は不要であり、議会改革が進めば進むほど、会派は解消に向かうという考え方がある。
しかし、会派を無くしたある市議会の方にお聞きすると、「かえって合意形成に時間がかかるようになった」、「結局、別の場所で集まって考え方の似た同士で集まって話し合っている」とも言う。
地方議会、特に基礎自治体議会選挙では、政党系会派以外の候補者は、候補者選択にあたっては、会派や党派より、その議員の考え方や人柄を支持するから投票しているのが実態であろう。一部には、会派マニフェストを制定し、会派共通マニフェストをアピールする努力も見られる。しかし、当選後に、議会人事のごたごたや首長選挙にからんで、会派そのものが消滅してしまい、マニフェストの存在が消えてしまう例も散見される。筆者も、これまで2回の選挙では、会派マニフェストを作成した。1回目は、会派の枠も維持されて、マニフェストに沿った議会活動を行う事ができたが、2回目は、改選後に会派が消滅。会派と候補者をセットで選択する試みは、なかなかに難しい。
しかし、マニフェスト作成を通じて、会派内での充実した議論は、その後の議会活動に役だった。定数が多い議会においては、全員でじっくり議論しあうというのは難しい。その点、会派は議論の単位としては最適規模となる場合もある。自由討論が制度化されてない議会においては会派内の話し合いが最も成熟した議論の場になっているという場合も多いのではないだろうか。
会派に属すべきか、一人会派を選ぶべきか?
新人議員の場合、まだ議会の右も左もわからない内に、いきなり会派選択を迫られる。議会を変えると声高に主張して当選した新人議員が、いつのまにか、最大会派に所属。すっかり牙を抜かれたようになるのはよくある話だ。
三重県四日市市議会は議会改革が進んだ議会として知られているが、改革のきっかけは、新人議員だけで会派を結成したことにあるという。長老議員の大量引退とそれに伴う新人議員の大量当選後に、新人議員が、新会派を結成。この会派が議長などの役職選挙の協力と引き替えに議会改革要求が実現したことから改革が始まったという。
一人会派は会派なのか?
会派は、平成12年の地方自治法の改正によって、初めて法律用語として登場した。政務調査費の制度を設置する議会が増えるにしたがって、政務調査費についての法制化の必要に迫られたことから、地方自治法第100条13項及び14項(現在は14項かつ15項、政務活動費に名称変更)において、政務調査費の規定を整備した。その際に、政務調査費の受け手として「会派又は議員に対し、政務活動費を交付することができる」こととなった。
それまでは、旧自治庁の指導もあり、戦後の一時期を除き、法律に基づかない金銭支給は控えることとされたため、別途支給条例を定め、会派支給を原則としてきた。(詳細は、原田光隆著 政務調査費制度の概要と近年の動向 国立国会図書館 ISSUE BRIEF NUMBER 608(2008. 2.21.) を参照のこと)
そのため、一人会派については、会派と認めない議会では、条例で政務調査費支給を定めたにもかかわらず、議員個人への支給はまかりならんという旧自治庁解釈に阻まれて、政務調査費支給対象外とされた事例がしばしばあった。
一人会派が果たして会派と言えるのかという議論も根強い。結社とは当然、2人以上が集まって構成される。議会内では、一人会派は結社とはいえない。しかし、たとえ一人であっても、議員が結社を代表して議会に参加しているとみなせば、一人会派といえども、その背景には多くの住民を代表しているのである。一人会派に対する政務調査費の支給問題については、平成12年の地方自治法改正によって、一定の決着をみた。
結局、会派は議会人事のためのもの?
その後、平成18年頃から、議会基本条例の登場によって、条例によって会派を定義する議会が増えた。平成19年制定の三重県伊賀市議会基本条例では「議会の会派は、政策を中心とした同一の理念を共有する議員で構成し、活動する。」と定義。また、会津若松市議会基本条例では「議員は、議会活動を行うに当たり、会派を結成するものとする」とし、会派の結成加入を原則とした。また、議会基本条例制定をきっかけに、議員の説明責任を果たす点からも、個別議員の賛否公開が標準化しつつある。一見矛盾するような動きである。会派制が基本であれば、厳密に解釈すれば会派の賛否の公開だけでいいはずだ。しかし、最近では、政党会派を除いては、会派内でも、意見が分かれることが多い。政策的な表決で、叛旗を翻して、会派を除名になったという例は、あまりない。たいていは、議長選挙などの議会内人事決定投票において会派の意向に沿わないケースである。議長選挙などで、会派の意向に従わない議員は、会派離脱を促されるか、それが複数の場合は会派の分裂という事態に陥る。会派は、議会内人事の分配組織という側面が実態としては強い。
会派は必要悪か?
個別議員の賛否の公開が行われている議会では、その公開の趣旨からいっても、政党系の会派も含めて、政策については、会派内でしっかり話しあい、その結果、表決については拘束しないということをもっと進めるべきだ。また、住民からの意見聴取単位としても会派は有効である。現に、会派マニフェスト作成に当たって、2010年度マニフェスト大賞グランプリを受賞した、自由民主党川口市議会議員団は、マニフェスト作成にあたって、住民の方からの意見聴取を行ったことが評価されてグランプリを獲得している。いずれにせよ、会派を無くせば議会は討議がすすむ活性化する、その逆に議会が活性化するほど会派は消滅に向かうということは、必ずしも言えない。当たり前だが、その議会ごとに会派のあり方に違いがあるのは当たり前のことである。
(文責:所沢市議会議員 桑畠健也)