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2014年03月13日

「常磐道でまちづくり」懸賞論文大賞⑤ワンストップ型職住相談対応政策

Ⅱ段階では、定住支援センターで、ワンストップで、職住の総合的な相談を受け付ける窓口が必要となる。この窓口では担当者が、・定住総合支援 ・新規就農支援 ・新規開業支援 ・宿泊業開業支援 ・起業支援 ・工房や販売スペースの低価格提供 ・住宅のあっせん・販売(市街地宅地販売 集落宅地販売) ・技術習得支援(相双地区住民国内外研修派遣制度) ・制度融資 ・町内及び近隣働き口紹介 ・研究開発スペース 等を福祉ケースワーカーのように行う。
 かつての企業誘致の場合も、工場用地の確保や免税措置など、やはり総合的に取り組んできたのと同様に、「人」誘致モデルの場合は、対象が、企業から個々人の「人」に変わると考えるとわかりやすい。
ただ、かつての企業誘致がどちらかと言えば、基盤的な環境の提供であったが、「人」誘致モデルでは、より高度なマーケティング能力が提供される側にも求められてくるだろう。
相談窓口で最も重要なのは、移住のためのケースワーカーに、そういった、高度なマーケティング能力を備えた、最適な人材を確保することであろう。仮に、こうした人材をホテルのコンシェルジェになぞらえて、移住コンシェルジェと名付ける。移住コンシェルジェには、実際に移住を経験して苦労した人が適任であろう。また、一定程度の予算と権限もなくてはならない。
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図2:定住促進ワンストップサービス概念図


「常磐道でまちづくり」懸賞論文大賞④定住促進へ向けての相双地域における推進のしかけ

③→④の具体的なしかけであるが、Ⅰ)まず常磐道サービスエリア内、もしくはインター近くに定住情報提供センター施設(定住支援サテライト)を設ける。Ⅱ)そこからさらに相双地域に興味を抱いた人には、地域内、いわき市・原町市・相馬市などの中心部に、相双地域へと定住するための準備を進めるための「定住支援集積」を設け、そこへ誘導する。ここでは、この地域に住みたいと願う「人」に対して、住居の提供や職業紹介等、あらゆる支援を行う。Ⅲ)そして、一定程度、相双地域での経済的基盤や人間関係を確立した後に、実際に相双地域へ定住する。

図1:定住促進へむけてのしかけ

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特にⅡ段階では、単なる情報提供に留まらず、相双地域での起業や就職を検討している人に、「貸し店舗」「貸し工房」や「貸し農地」など起業のための施設提供や、教育のための施設やプログラム、また、住居や宅地も提供するなど総合的な支援態勢を定住支援集積では実施する。特に、支援集積を空洞化が進む中心市街地に置けば、中心市街地の活性化にもつながっていくだろう。Ⅱ段階を経て、本格的な定住に移行するのが理想的ではあるが、実際は、定住を断念する、あるいは季節的な定住を選択する場合も出てくるだろう。しかし、いきなり地域に単独で入るより、こうしたプロセスを経るほうが、定住希望者にとっても受け入れ側にとってもリスクを減らすことが可能になるだろう。
こうした、しくみは当然ながら、定年退職後の移住先を求める人々にとっても有用である。特に、相双地域の特徴として、日照時間の長さや降雪量も少ないなど、定年後の居住環境としても魅力的であることはあまり知られていない。こうした人々が、相双地域を観光で訪れて、その魅力を知ることになり、さらなる定住促進が期待できる。
こうした、しくみを運営する推進体制であるが、基本的には、起業支援の枠組みのように、コンソーシアム体制で行うのがよいだろう。新たな別組織を第三セクターで設けるより、それぞれの拠点ごとに、各地域の自治体や商工会議所、農協等が、出向転籍せずに、適宜人を出すという方法が、望ましいだろう。また、相双地域ごとに単一の組織にするのではなく、それぞれが一定の基準を満たしながら、地域の独自性にあわせて、メニューを変えるということも重要であろう。相双地域に、3ヶ所程度のそうしたセンターができれば、センターごとに適度の競争原理が働いて、全体として、移住がさらに促進されることになるだろう。

「常磐道でまちづくり」懸賞論文大賞③「人」誘致モデルへ

「人」誘致モデルの事例として、参考になるのが、北海道美瑛富良野地域の発展モデルである。ここは、高速道路整備が進んでいる地域ではないが、国道38号線を基軸として発展してきた地域である。北海道富良野市は、平成7年まで人口が減少傾向だったが、その後、平成12年に向けて、人口が増加し、北海道内でも、また全国的にみても都市近郊以外の農村地域としては珍しい傾向を示している。
表2:北海道富良野市の人口と世帯数

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その最大の理由としては、やはり、昭和56年から、TVドラマ「北の国から」が富良野を舞台に放映されたことがきっかけとなったといえよう。倉本聰氏は、富良野という生活環境に惚れ込み、東京からこの地に生活の拠点を移して、この地を舞台に脚本を書きつづけた。さらに、同じ国道38号線沿いの美瑛町には、やはり美瑛の農村環境の美しさに魅入られて移住した写真家前田真三氏の写真美術館「拓真館」がある。こうした、ソトから来た「人」が生み出したソフト資産によって、人気を集め、富良野市だけでも平成11年度、人口の90倍の約230万人が訪れる観光地に成長した。地域一帯が、北海道でも最も集客力のある観光ゾーンになったことで、清里地区同様、ここに住んでみたい、住み為に何か事業を起こしたいといった新規の定住者が増えた結果、人口増につながったといえよう。
ここで、大事なポイントは、この地域の観光開発は、テーマパークやリゾート開発などと違い、幸いなことに、地域の生活に根ざした空間が観光資源として取り扱われている点である。ただ、そうした地域の良さを発見し磨きをかけたのは、外からやってきた倉本聰氏であり前田真三氏であった。
注意していただきたいのは、だから、相双地域に有名人を呼んできて、TVドラマを作らせばよいという短絡的な話ではなく、学ぶべきは、魅力的な「人」が集まってくれば、地域の魅力が再発見されて、さらなる人を呼び込み、そのことが、定住者を自然に増やしていくという事実である。また、期せずして、小規模ながら起業が促進されるということである。高速道路の整備を企業の誘致ばかりでなく、そうした魅力的な「人」をさらに呼び込むための機能にも着目するのである。では、相双地域がめざすべき、もう一つの発展モデル、「人」誘致もでるはよって下記の通りに整理できる。
①高速道路の整備・開通→②観光の強化→③交流人口の増大→④定住人口の増大
①の高速道路の整備・開通は所与の条件として、企業立地モデルでは、「企業誘致の推進」すなわち工業団地の造成ということになるが、「人」誘致モデルでは、②観光の強化に取り組むこととなる。また、このモデルで定義する観光とは、観光入込客数を増やすことを第一の目的とするのではなく、最終的な定住者増を目指すための観光の強化というポイントはくれぐれも忘れてはならない。
現在、この地域を対象とした、JTBの「るるぶ」も昭文社の「マップル」も発行されていないぐらい、相双地域としての観光客誘致の基礎的な要件は整っていない。まずは、相双地域連携の観光サイトや共同出版物の必要があるだろう。いずれにしろ、観光入込みを第一の目的としなくても、必要最低限の入込み客数の確保は必要になる。もちろん、この地域では、かつての常磐ハワイアンセンター、今のスパリゾートハワイアンや、「相馬野馬追」、日本百景の一つ「松川浦」など、地理的・季節的な点として集客力のある施設やイベントがある。最近では、「Jビレッジ」なども人気を博している。
しかし、どの施設やイベントも、美瑛富良野地域のように、それぞれに参加した観光客が、近隣の別の観光スポットを回るというようになっていない。まずは、相双地域内だけで1泊2日、3~4ヶ所巡るようなコース設定が必要になろう。
こうした観光振興策は、今回の主題ではないので深くは触れないが、せっかく高速道路が整備されたのであるから、これまでではまわりきれなかったポイントも相双地域内で回れる可能性がでてきていることに留意しながら、観光の強化を行うべきであろう。②観光の強化は必然的に③交流人口の増大を促す。
そこから重要になるのが、③から④定住人口の増大に如何に結び付けていくかというポイントである。ただ単に、入込み客数を増やしたいなら、簡単ではないが、団体ツアーを増やすようなしかけを用意すればよい。しかし、団体ツアーで来た観光客が、④定住人口へと結びつくことは非常に困難だろう。もちろん、団体ツアーで気に入って個人的に、もう一度来ようとなれば、話は別である。だがそういったケースは想定しにくい。やはり、個人的に相双地域を気に入って、個人的なツアーとして相双地域を訪問していただくようになっていただきたい。であるので、観光の強化の指標は、単なる観光入込み客数の増加と設定してはならない。観光入込み×滞在時間という指標で評価するべきであろう。
もし、そうした、相双地域に思いを寄せる人が是非ここに住んで見たいとなった場合、これまでは、地域ではどのような対応をしてきただろうか。恐らくは、個人的なつながりで、住むところや働き先を斡旋してきたのではないだろうか。こうした「人」を定住化させるためのしかけを相双地域全体で意図的に作り上げていくことが、「人」誘致モデルにとって重要である。

「常磐道でまちづくり」懸賞論文大賞 ②企業立地発展モデルからの脱却

 高速道路の整備による効果としては、第一に、目的地への到達時間が短縮される、既存道路の渋滞が緩和される、通行止めなどの緊急事態への対応力が高まるなど、地域生活の利便性向上が上げられる。
続いては、地域経済への波及効果である。例えば農林水産業の大消費地への輸送が便利になり、高値で出荷できるようになるといったことや、先ほども例示した清里地区における観光客の増加といったような例がある。
しかし、東北地域の高速道路整備で最も実績のある経済波及効果は、道路整備に伴う企業立地の増加であろう。通商産業省の工業統計表によれば、東北地域の高速道路の沿線と非沿線の工業出荷額の推移を比べた場合、昭和60年時点で、沿線地域が約9兆円、非沿線地域が約3兆2千億円と、3倍弱であった。
平成12年にはその差は縮まることなく、沿線地区が、約13兆円、非沿線地区が約4兆
1千億円となっている。
昭和63年の常磐自動車道のいわき市での供用開始によりいわき市の工業団地の分譲率が51%から100%に上がり、それによって、人口及び就業人口の増加がそれぞれ、図られた。  
この事例に典型的に見られるように、
①高速道路の整備・開通→②企業誘致の促進→③就業先の拡大→④定住人口の増大という企業立地モデルが、高速道路整備による経済波及効果モデルとして、東北地域なかんずく、相双地域でも強く支持されているのではないだろうか。
特に、いわき市は、昭和60年の製造品出荷額が678,900(百万円)が平成13年には、1,025,900(百万円)と約1.5倍に増加し、現在では、仙台市を抜いて、出荷額が東北第1位となった。これだけ、常磐自動車道による成功事例があると、当然ながら、その先の地域においても、この企業立地モデルを展開するべきであるとの議論が説得力をもってくるだろう。特に、相馬市は、平成11年で、一人あたりの製造品出荷額は、338(百万)と、いわき市の287(百万)を越えているほどの工業都市でありながら、相馬中核工業団地の分譲率が84%、操業割合は44%と低迷しているため、「常磐道さえ開通すればさらなる発展が望める」との思いが地域の人々にとっても強いのではなかろうか。おそらく、実際に相馬市まで延伸することで、操業割合が増加することも期待できるであろう。しかし、目的を高速道路整備にともなう人口増加に絞り込むならば、企業立地モデル以外のモデルも検討の余地があるのではないだろうか。相双地域でも相馬市のような場合は、そのモデルが成り立つとして、他の自治体の発展を考えた場合、高速道路整備を活用した別のモデルも検討しておく必要があるのではないだろうか。つまり、①高速道路の開通→②企業誘致の促進→③就業先の拡大→④定住人口の増大の②と③の部分の替わりに別のモデルを当てはめるのである。
ここで、ちょっと寄り道して、人口が定着するための今日的必要条件について考えて見たい。まず、仕事さえあれば、若者は定着するのだろうか。あるいは仕事さえあればUターン、Iターンなどは盛んになるのだろうか。仕事はあっても、その仕事に満足できない、あるいは都市的生活が享受できる基盤を持たなければ、定住は増えないのではないだろうか。都市のフリーターが、仕事があるというだけの理由で、相双地域に移住してくるだろうか。
やはり、最近では、仕事への嗜好も多様化しており、それぞれの「いきがい」や「やりがい」といった要素を満たす仕事があること、言いかえれば、様々な仕事のバリエーションがあること、一方では都市的な生活基盤が整っていることが求められる。もちろん地域に都市的な基盤がなくても、1~2時間程度で、都市にアクセスできる環境にあることが重要になってくるだろう。そういった点からいえば、相双地域は、常磐道の整備によって、南には、東北以北で、政令指定都市・県庁所在地を除く都市としては、旭川市に続く人口36万人のいわき市を有し、また、今後の常磐道の進展によって、東北最大の都市である人口98万人の仙台市へのアクセスがさらに容易になる。後者については、高速道路整備が実現することで一定の要件を満たすとして、前者については、企業立地モデルだけでは限界があるといえよう。
 そこで、提案したいのが、「人」誘致モデルである。企業立地モデルでは、働き口さえ確保すれば、おのずと人口増加は実現できるということが前提条件であったように思う。暗黙の前提として、仕事がなければ「人」は来ない、と想定されている。本当にそうだろうか。最近の地域への移住のケースでは、地域に住みたいという「人」がまず来て、そこから地域に住むための仕事を探し、あるいは起業し、定住を実現するという人々も増えている。そうした「人」は、地元出身者、あるいは地元周辺出身者の場合もあろうし、まったく、地元とは縁もゆかりもない「人」もいるだろう。そうした、この地域に定住したい「人」支援たちの支援態勢を整えるのが、「人」誘致モデルである。

「常磐道でまちづくり」懸賞論文大賞 ①人口増加を目指す道路建設

2004年ちょうど市議会議員になる前に書いた懸賞論文が大賞をいただきました。論文をもとにした発表とフォーラムも大熊町文化センターにて開催されました。表立っては言っていませんが、要するに原発などの外部からの開発投資によるまちづくりはそろそろやめにしたほうがいいですよね。という内容です。

1.人口増加を目指す道路建設
一本の道路の開通が、地域に及ぼす効果は、場合によっては地域の容貌を一変させるほどの効果を持つ。しかし、近年は残念ながら、道路の建設に伴う投資の直接的な不採算性に焦点が当てられ、効果の本格的な議論が疎んじられている傾向がある。
 高速道路整備によって、一変した例としては、山梨県高根町清里地区がある。
清里地区はレストランと喫茶店がわずか一軒しかない地域であったが、1982年の中央自動車道の全面開通に伴い、観光入込み客数が、百万から、最盛期の1992年には二百五十万人を越すまでに増加し、一大高原リゾートとして発展を遂げた。高根町の人口も、1980年には7895人まで減少したが、以後は緩やかながら増加に転じ、2001年には9578人まで増加し、高速道路の開通は、人口減少傾向にも歯止めをかけたといえよう。
    一方相双地域の人口の増減に目を転じると、相双地域の2001年と2002年度の人口増減比は、この地域の主要都市である、いわき市、原町市、相馬市でそれぞれ、99.8、99.6、99.3と微減傾向にある。またこれら3市以外の町村も、いわき市や相馬市のベットタウン化がすすむ広野町・新地町を除き同様の傾向を示している。すでに全線開通した東北自動車の福島県通過都市である、福島市、郡山市、白河市、須賀川市がそれぞれ、100.0 、100.4 、100.0 、100.5と微増であることと比較すると、わずかな差であるとはいえ見事な対比を見せている。
新たな道路の建設、開通の目的は、様々な波及効果が期待されるが、本論では、常磐道の伸展が、最終的には相双地域の人口の維持ないしは増加に貢献するべきであるとの観点に立って、論を進めていきたい。

表1:常磐道沿線都市と、東北道沿線主要都市の人口及び人口伸び率比較


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