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介護保険は老いを守るか(岩波新書)批評③

 さて、この著書において最も違和感を感じたのが、著者が披歴する「ローカルルールの暴走」(52p)という表現です。著者は、特に生活援助における同居家族の定義において、自治体によってまちまちであることを問題にします。そして、そのことに対して厚生労働省老健局振興課が「市町村においては、同居家族等の有無のみを判断基準として、一律に介護給付の支給の可否を機械的に判断しないようにされたい」と発出したことを称賛しています。(59p)
 
 立場が違うと同じ内容についてこれほど見方が変わるものかと思いました。

 まず、介護保険の保険者は誰でしょう。市町村です。現状の介護保険制度は、いちいち、厚生労働省の老健局振興課が、全市町村の介護保険制度を取り仕切っています。
 市町村も唯唯諾諾とそれに従っているのも情けない話です。

 ここで、あらためて確認すると、まず、振興課発出の文書は、ただの技術的助言(地方自治法第245条の4)にすぎないわけで、法令の解釈権は、自治体にあると地方分権一括法以降はなっています。ですから介護保険法の解釈も、保険者たる自治体にあるのであって、そのことを「ローカルルールの暴走」といわれてしまうと、地方分権の理念からすれば、ちょっと容認しがたいです。

 もちろん、こうした問題は、地方議会などで、その問題点をしっかり受け止めて議論すべきテーマだと思います。そこに、わざわざ水戸黄門の印籠のごとくに振興課の文書を持ち出して言うことを聞けというのは、地方分権に反する営為であり、著者はそうした背景をわかって、あえて書いているのか、あるいは知らないで本当に書いているのか。およそ岩波新書としては、松下圭一先生の三部作も出版しているのですから、そうした岩波新書としての全体的な整合性はどうなっているのか、ちょっと疑問なところであります。

 いずれにせよ、実態としては責任逃れのために厚生労働省からの技術的助言に頼り切っているところに保険者たる市町村のだらしなさもあり、なんとも言えないところではあるのですが。

 つづく
 

 

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