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日経グローカル寄稿「討議の人数」

日経グローカル2013年6月17日号への寄稿記事です。今回も、実際の投稿記事とは若干違っています。

 議会における討議を充実させることが、これまで以上に求められている。これまでも討議を充実させる目的で、多くの議会が委員会中心主義を選択し、委員会に議案付託してきた。議員定数が多い議会では、本会議だけでは議論がなかなか深まらないからだ。常任委員会の定数は、全体の定数と常任委員会数で決定されてきた。しかし、法定上限の撤廃で、委員会において、活発な討議がなされることが期待される最適な人数を改めて検討する議会が増えて来ている。委員会定数の検討を通じて討議の最適人数について確認する。

1委員会6名だと、議論が盛り上がらない?

 先日、議会改革の勉強会で、合併後の議員定数削減により、1委員会あたりの定数が6名になったある市の市議会議員から発言があった。その議員によれば、「1委員会6名では、結論が最初から見えてしまって、積極的な議論が成立しない」、「少なくとも7名以上の議員が各委員会に存在するべき。そのためにも、報酬を多少減らしてでも、議員定数を引き上げるべき」とのことだった。6名定数の委員会構成では、委員長が表決に加わらないので、実質5名での審査となり、討議が盛り上がらず、審査ではなく追認になってしまう可能性は高くなるようだ。 
 理論的には、地方自治法が改正されて、常任委員会の複数所属が可能になったので、議員定数はそのままで、常任委員会の定数を確保するという方法は考えられる。しかし、そうなると、複数所属した議員の守備範囲が広がり、自ずと政策への目配りは浅くなる可能性が高い。
 常任委員会あたりの定数は最低3名確保される必要がある。2名以下であれば、1名が委員長、1名が委員となり、議論が成立しない。委員の見解=委員会の見解となり、委員会を構成する意味がなくなる。3名の場合は、争点がはっきり分かれる議案であれば、賛否がはっきりするので、委員会内での議論が成立する。しかし、賛否が分かれた場合、常に委員長の判断となり、合議体の体を成さなくなる。4名の場合、委員長を除き、3名の表決となり、見解が分かれた場合、委員長の表決なしで可決が可能になる。したがって活発な討議を前提とする本来の意味での合議制の委員会制度を目指すならば、1委員会4名が最低限と導き出せる。

考慮すべき議員の4つの属性

 では、なぜ定数4名に収斂していかないかといえば、多様な意見が反映されないことにあるようだ。まず、問題となるのは、地域の声を反映させるという機能である。基礎自治体の議員選挙は、一部の政令市などを除き、大選挙区制である。だが、実際には、議員ごと地盤としている地域が存在する。所沢市は11行政区がある。もし4名だと、特定の地区を対象とした議案の場合、関係当事者がまったく存在せずに議論されることが頻繁となる。ましてや、平成の大合併により、自治体の面積は拡大した自治体では、全く地域事情が把握できずに審議が進む可能性もでてくる。議員の年齢な男女比の問題も指摘できよう。やはり男性が圧倒的多数の議会が多い。そうした現状をみれば、4名の場合、全く女性が所属しない委員会が存在することになる。また、年齢についても、子育て現役世代か年金世代かによって、視点も変わってくる。教育問題を年金世代だけで議論していては、時代に即した議論が行えない。議員歴の問題も指摘できる。一定程度の年季を積んだ議員は、議案についての知識も豊富な場合がある。逆に、期の浅い議員は、より市民感覚に近い議論ができる。いずれの常任委員会も、そうした地域性、専門性、議員歴など議員の属性のバランスがとれていることが、討議が活発になるためには必要な条件である。
 所沢市議会でも、本年度、議員定数のあり方に関する審議会を設置し、学識経験者2名、地域代表2名、公募による自薦市民1名により3回の審議を行っていただいた。「1委員会の定数は9名が望ましく、もし、財政状況などを配慮するとしても、最低8名は確保すべき」という答申をいただいた。審議会では、議員アンケートや常任委員長、副委員長に対するヒアリングを実施したが、「欠員が生じた委員会は、議論の多様性や活発さに多少の差が生じる」との声もあった。

人数が多いほど良いわけでもない

 国会議員選挙における民意はある程度適切に反映されているという条件のもとに考えるなら、国会の会派数は概ね、日本国の平均的な政策分布を反映していると言えよう。平成25年2月現在で、衆議院には、会派が無所属を含め、9つ、参議院は11ある。どの議会でも、一定の人口規模以上の議会であれば、最低5以上の会派が存在するのではないだろうか。随分乱暴な議論となるが、委員会内部で、少数意見を包摂しようとするなら、最低9名から11名は必要となる。実際は、これらの政策分布に、さらに、先ほど検討した地域性などの条件加味すると、1委員会10名以上を想定せざるを得なくなる。こうなると、逆に、委員会での議論が収束から拡散へと向かう可能性も出てくる。所沢市議会で、昨年度政策討論会を始めて実施した。初回は、要綱に定めた通り、12名で実施したところ、時間の制約もあったことから、一通りの意見を述べただけで、討議が盛り上がらず、拡散してしまった。そこで、今年度は、9名に絞って討議を行った。一定の方向に議論が収斂するところまでは行ったとは言えないが、昨年度ほどの討議の拡散は防ぐことができた。また、ワールドカフェという、少人数での自由な討議空間を創出しようとしているしくみによれば、討議できる人数を6名以下としているという。7名以上だと、他者の評価が気になって自由に意見を述べることができないからとのことである。地方議員の場合は、他者評価に対してそれほど過敏に反応するとも思えないが、いずれにせよ、自由な討議を保障するためにも、無制限に常任委員会の定数を増やしていくというわけにはいかない。特別委員会の定数は、常任委員会よりも定数が多い例が多いように思う。特別委員会が、例えば、議会基本条例の制定や、自治基本条例の審議など、目的が強く設定されていれば、人数が多くても、これまでの経験上、議論は収束するが、あいまいな目的を持つ勉強会的な特別委員会は、どうしても、一定の議論に収束していかない傾向がある。

常任委員会における適正人数は7名以上

 以上、より活発な討議が保障される人数について、様々な可能性を検討してきたが、あくまでも経験則の域を出ないが、定数は最低7名以上、自治体の規模が大きくなれば8名以上というのが、現下の政治財政情勢から行っても妥当な人数といえるのではないだろうか。また、上限については、定数が増えれば増えるほど、特定の参加者のみの発言に集中することが懸念される。なるべく、参加する全員が発言できる環境を保障するのなら、やはり12名程度を上限とするのが、やはりこれもこれまでの議会の経験則からいえるのではないだろうか。いずれにせよ、議員定数の法定上限が撤廃された以上、それぞれの議会で適正な定数の議論を行う義務があることを改めて認識していただきたい。

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