現下の経済危機に処するわが社の方針(松下幸之助)
松下政経塾の卒塾生で希望する者は、松下政経塾の佐野尚見塾長(理事長)から、毎月、メールでメッセージをお送りいただいている。
今回は、松下幸之助塾主が、戦後すぐの時期に社員および関係者に向けて発せられたメッセージを引用されていた。
佐野塾長にご了解をいただき、佐野塾長が引用された部分を改めてご紹介させていただきたいと思います。
それぞれご覧になられて、さまざまな感想をお持ちになるかと思いますが、あまり広く紹介されていない文章とのことですので、ご紹介させていただきます。
以下 引用です。
現下の経済危機に処するわが社の方針
昭和20年(1945年)11月
松下幸之助
1. 序
戦時中、国家の戦争遂行のためにご奮闘願い、大変御苦労であった。本日改めてお礼を述べ厚く感謝する次第である。
顧みて我が社の経営の実情は如何か。
終戦前までは、内外併せて六十七箇所の軍需工場があったが、結局未だ本格的に生産に入っていない始末である。また銀行よりの借入金は二億数千万円、その利子だけでも一千万にのぼる有様で、経営はなかなか多難なものがある。
このような状態の下において復興しなければならないのである。苦しい事は苦しいが、今この苦しみをば単にそれのみに終わらせては国家、社会に対して甚だ申し訳がない。我々はこの困苦の中から新しい正しい道を見出し、松下電器を社会に貢献せしめ、産業人たる使命達成に邁進しようではないか。しからばどうなすべきか。
2. 日本精神の体得
我々は常に日本精神を保持していると誇称してきたが、過去数十年間果たして真個の日本精神を体得していたであろうか。残念ながら失っていたように思う。しからば、真の日本精神とは何かというと「至誠」の一語に尽きると考える。
日本精神を三千年間の歴史を通じてみると、一貫して流れるものは「至誠」である。「至誠」の錬磨されていく姿である。この至誠の心は畏いことながら天照大神の大御心であって、この大御心を
伝え伝えして三千年間琢磨し、培われきたったのが醇乎の日本精神である。
この日本精神を基礎において、政治も外交も、経済もなされておれば、戦も起こらなかったであろうし、また敗戦もしなかったであろう。というのは、真の日本精神に立てば、「至誠」は神に通じ、融通無碍である。事の成ると成らざるとがよく分かり、決して誤たないのである。
しかるに、数十年前から深く日本精神を研究することなく。却って、誤り教えられて偏狭な考え方に陥ってしまった。昨今の道義を、至誠のよく顕現された武士道と比べてみるとき、極めて明瞭で
あって、今日いづこに日本精神ありやと呼びたくなるほどである。
武士道の特徴とする、物に捉われない潔い行為も、今日は殆ど見受けられない。また美しい友情もない。全く日本精神が地に落ちてしまった観がするのである。
従ってこれから真に日本を建て直すには、先ずかく誤れる日本精神を真個の姿に取り戻し、正しく体得し至誠を以てすべてに向かうことを復興の第一歩とすべきである。
ところで、日本精神の体得には謙虚の心がなければならない。一国の首相は誰よりも謙虚であり
頭が低くあらねばならない。かかる態度で事を処してゆくとき、心は磨かれ、至誠は常に心の中にあって、決して事を誤だないのである。政治する人も、己惚れることなく人に教えを乞う気持ちで行えば、才知才覚は涌き、あやまりなく政治を運ぶことができるのである。
引用 終わり