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「常磐道でまちづくり」懸賞論文大賞③「人」誘致モデルへ

「人」誘致モデルの事例として、参考になるのが、北海道美瑛富良野地域の発展モデルである。ここは、高速道路整備が進んでいる地域ではないが、国道38号線を基軸として発展してきた地域である。北海道富良野市は、平成7年まで人口が減少傾向だったが、その後、平成12年に向けて、人口が増加し、北海道内でも、また全国的にみても都市近郊以外の農村地域としては珍しい傾向を示している。
表2:北海道富良野市の人口と世帯数

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その最大の理由としては、やはり、昭和56年から、TVドラマ「北の国から」が富良野を舞台に放映されたことがきっかけとなったといえよう。倉本聰氏は、富良野という生活環境に惚れ込み、東京からこの地に生活の拠点を移して、この地を舞台に脚本を書きつづけた。さらに、同じ国道38号線沿いの美瑛町には、やはり美瑛の農村環境の美しさに魅入られて移住した写真家前田真三氏の写真美術館「拓真館」がある。こうした、ソトから来た「人」が生み出したソフト資産によって、人気を集め、富良野市だけでも平成11年度、人口の90倍の約230万人が訪れる観光地に成長した。地域一帯が、北海道でも最も集客力のある観光ゾーンになったことで、清里地区同様、ここに住んでみたい、住み為に何か事業を起こしたいといった新規の定住者が増えた結果、人口増につながったといえよう。
ここで、大事なポイントは、この地域の観光開発は、テーマパークやリゾート開発などと違い、幸いなことに、地域の生活に根ざした空間が観光資源として取り扱われている点である。ただ、そうした地域の良さを発見し磨きをかけたのは、外からやってきた倉本聰氏であり前田真三氏であった。
注意していただきたいのは、だから、相双地域に有名人を呼んできて、TVドラマを作らせばよいという短絡的な話ではなく、学ぶべきは、魅力的な「人」が集まってくれば、地域の魅力が再発見されて、さらなる人を呼び込み、そのことが、定住者を自然に増やしていくという事実である。また、期せずして、小規模ながら起業が促進されるということである。高速道路の整備を企業の誘致ばかりでなく、そうした魅力的な「人」をさらに呼び込むための機能にも着目するのである。では、相双地域がめざすべき、もう一つの発展モデル、「人」誘致もでるはよって下記の通りに整理できる。
①高速道路の整備・開通→②観光の強化→③交流人口の増大→④定住人口の増大
①の高速道路の整備・開通は所与の条件として、企業立地モデルでは、「企業誘致の推進」すなわち工業団地の造成ということになるが、「人」誘致モデルでは、②観光の強化に取り組むこととなる。また、このモデルで定義する観光とは、観光入込客数を増やすことを第一の目的とするのではなく、最終的な定住者増を目指すための観光の強化というポイントはくれぐれも忘れてはならない。
現在、この地域を対象とした、JTBの「るるぶ」も昭文社の「マップル」も発行されていないぐらい、相双地域としての観光客誘致の基礎的な要件は整っていない。まずは、相双地域連携の観光サイトや共同出版物の必要があるだろう。いずれにしろ、観光入込みを第一の目的としなくても、必要最低限の入込み客数の確保は必要になる。もちろん、この地域では、かつての常磐ハワイアンセンター、今のスパリゾートハワイアンや、「相馬野馬追」、日本百景の一つ「松川浦」など、地理的・季節的な点として集客力のある施設やイベントがある。最近では、「Jビレッジ」なども人気を博している。
しかし、どの施設やイベントも、美瑛富良野地域のように、それぞれに参加した観光客が、近隣の別の観光スポットを回るというようになっていない。まずは、相双地域内だけで1泊2日、3~4ヶ所巡るようなコース設定が必要になろう。
こうした観光振興策は、今回の主題ではないので深くは触れないが、せっかく高速道路が整備されたのであるから、これまでではまわりきれなかったポイントも相双地域内で回れる可能性がでてきていることに留意しながら、観光の強化を行うべきであろう。②観光の強化は必然的に③交流人口の増大を促す。
そこから重要になるのが、③から④定住人口の増大に如何に結び付けていくかというポイントである。ただ単に、入込み客数を増やしたいなら、簡単ではないが、団体ツアーを増やすようなしかけを用意すればよい。しかし、団体ツアーで来た観光客が、④定住人口へと結びつくことは非常に困難だろう。もちろん、団体ツアーで気に入って個人的に、もう一度来ようとなれば、話は別である。だがそういったケースは想定しにくい。やはり、個人的に相双地域を気に入って、個人的なツアーとして相双地域を訪問していただくようになっていただきたい。であるので、観光の強化の指標は、単なる観光入込み客数の増加と設定してはならない。観光入込み×滞在時間という指標で評価するべきであろう。
もし、そうした、相双地域に思いを寄せる人が是非ここに住んで見たいとなった場合、これまでは、地域ではどのような対応をしてきただろうか。恐らくは、個人的なつながりで、住むところや働き先を斡旋してきたのではないだろうか。こうした「人」を定住化させるためのしかけを相双地域全体で意図的に作り上げていくことが、「人」誘致モデルにとって重要である。

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