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「常磐道でまちづくり」懸賞論文大賞 ②企業立地発展モデルからの脱却

 高速道路の整備による効果としては、第一に、目的地への到達時間が短縮される、既存道路の渋滞が緩和される、通行止めなどの緊急事態への対応力が高まるなど、地域生活の利便性向上が上げられる。
続いては、地域経済への波及効果である。例えば農林水産業の大消費地への輸送が便利になり、高値で出荷できるようになるといったことや、先ほども例示した清里地区における観光客の増加といったような例がある。
しかし、東北地域の高速道路整備で最も実績のある経済波及効果は、道路整備に伴う企業立地の増加であろう。通商産業省の工業統計表によれば、東北地域の高速道路の沿線と非沿線の工業出荷額の推移を比べた場合、昭和60年時点で、沿線地域が約9兆円、非沿線地域が約3兆2千億円と、3倍弱であった。
平成12年にはその差は縮まることなく、沿線地区が、約13兆円、非沿線地区が約4兆
1千億円となっている。
昭和63年の常磐自動車道のいわき市での供用開始によりいわき市の工業団地の分譲率が51%から100%に上がり、それによって、人口及び就業人口の増加がそれぞれ、図られた。  
この事例に典型的に見られるように、
①高速道路の整備・開通→②企業誘致の促進→③就業先の拡大→④定住人口の増大という企業立地モデルが、高速道路整備による経済波及効果モデルとして、東北地域なかんずく、相双地域でも強く支持されているのではないだろうか。
特に、いわき市は、昭和60年の製造品出荷額が678,900(百万円)が平成13年には、1,025,900(百万円)と約1.5倍に増加し、現在では、仙台市を抜いて、出荷額が東北第1位となった。これだけ、常磐自動車道による成功事例があると、当然ながら、その先の地域においても、この企業立地モデルを展開するべきであるとの議論が説得力をもってくるだろう。特に、相馬市は、平成11年で、一人あたりの製造品出荷額は、338(百万)と、いわき市の287(百万)を越えているほどの工業都市でありながら、相馬中核工業団地の分譲率が84%、操業割合は44%と低迷しているため、「常磐道さえ開通すればさらなる発展が望める」との思いが地域の人々にとっても強いのではなかろうか。おそらく、実際に相馬市まで延伸することで、操業割合が増加することも期待できるであろう。しかし、目的を高速道路整備にともなう人口増加に絞り込むならば、企業立地モデル以外のモデルも検討の余地があるのではないだろうか。相双地域でも相馬市のような場合は、そのモデルが成り立つとして、他の自治体の発展を考えた場合、高速道路整備を活用した別のモデルも検討しておく必要があるのではないだろうか。つまり、①高速道路の開通→②企業誘致の促進→③就業先の拡大→④定住人口の増大の②と③の部分の替わりに別のモデルを当てはめるのである。
ここで、ちょっと寄り道して、人口が定着するための今日的必要条件について考えて見たい。まず、仕事さえあれば、若者は定着するのだろうか。あるいは仕事さえあればUターン、Iターンなどは盛んになるのだろうか。仕事はあっても、その仕事に満足できない、あるいは都市的生活が享受できる基盤を持たなければ、定住は増えないのではないだろうか。都市のフリーターが、仕事があるというだけの理由で、相双地域に移住してくるだろうか。
やはり、最近では、仕事への嗜好も多様化しており、それぞれの「いきがい」や「やりがい」といった要素を満たす仕事があること、言いかえれば、様々な仕事のバリエーションがあること、一方では都市的な生活基盤が整っていることが求められる。もちろん地域に都市的な基盤がなくても、1~2時間程度で、都市にアクセスできる環境にあることが重要になってくるだろう。そういった点からいえば、相双地域は、常磐道の整備によって、南には、東北以北で、政令指定都市・県庁所在地を除く都市としては、旭川市に続く人口36万人のいわき市を有し、また、今後の常磐道の進展によって、東北最大の都市である人口98万人の仙台市へのアクセスがさらに容易になる。後者については、高速道路整備が実現することで一定の要件を満たすとして、前者については、企業立地モデルだけでは限界があるといえよう。
 そこで、提案したいのが、「人」誘致モデルである。企業立地モデルでは、働き口さえ確保すれば、おのずと人口増加は実現できるということが前提条件であったように思う。暗黙の前提として、仕事がなければ「人」は来ない、と想定されている。本当にそうだろうか。最近の地域への移住のケースでは、地域に住みたいという「人」がまず来て、そこから地域に住むための仕事を探し、あるいは起業し、定住を実現するという人々も増えている。そうした「人」は、地元出身者、あるいは地元周辺出身者の場合もあろうし、まったく、地元とは縁もゆかりもない「人」もいるだろう。そうした、この地域に定住したい「人」支援たちの支援態勢を整えるのが、「人」誘致モデルである。

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